「ふんふんふ~ん・・・・・・」
鼻歌を歌いながらイシュガルドの宝杖通りを歩くヴィエラが一人。 ——ルナは料理屋の前で立ち止まると、店先に並べられた色とりどりの野菜や果物を手に取って、「これください!」と弾むような声で言った。丁寧に包まれた紙袋を受け取ると、帰路につこうと店を後にする。その浮き足立った様子は、さながらイベントを明日に控えた子供のようだった。
「おい、雇い主もいないのに何をするつもりだ?また変なことでも企んでるんじゃないだろうな。」
だというのに、水を差しに来る低い声が一つ。 声の方へ視線をやれば、黒いコートに身を包んだ見慣れた顔。その不愛想な面は、ミコッテでもないのに不貞腐れた猫のようだ。
「企んでるだなんて人聞きが悪いなぁキミは!」
むっと頬を膨らませて言い返せば、ファウストは呆れたような顔を浮かべる。
「事実だろう。この間、雪に強い植物を育てるとかで、庭を草だらけにしたのはどこのどいつだ?」
「あれは・・・・・・!!ちょっと庭が寂しいかなぁって思っただけで・・・・・・」 「——本当に違うんだって!!アラディアが明日には帰ってくるから何か料理でも作ってあげようかなと思ったのさ!!」
大慌てで弁明するルナを前に、ファウストは呆れたように苦笑を漏らした。
「あいつが作った方が美味いだろう」と首を傾げれば、ルナはチッチッチと人差し指を左右に振る。
「いくらテレポできるからって長旅から帰って来るんだよ?アラディアがいくら超絶体力おばけで、悪いやつを杖で伸すのも、ただの木材に繊細な彫刻を施すのもやってのけたって、人間はいつか疲れるものさ。そういう時は並の手作りでも美味しいご飯を食べるのがいちばん!」
それに、アラディアは味付けどうこうでみみっちいこと言わないでしょ?と正論を突かれ、ファウストにも思い当たる節があったのか、「まぁ、たしかにそうだが・・・・・・」とどこか納得できないように頷く。
彼ら二人の雇い主、アラディアは世界中を旅する冒険者だ。 世界中といえどもその範囲はエオルゼアだけにとどまらず、しばらく前は「月に行ってくる」とまで言い出した突拍子もない人。今はトラル大陸に赴いているらしく、明日イシュガルドに戻ってくるらしい。
ルナの抱える紙袋たちに視線を向け、ファウストはふと尋ねた。
「……ところで、そんなに買い込んで何を作るんだ?」
すでにルナの細く筋肉質な両腕には、視界を塞ぐほどの紙袋が山のように積み重なっていた。 アラディアは別に少食ではない。とはいえ、これは自分たちも含めて1週間は食べるのに困らなさそうな量だ。
「そうだなぁ、アウフラウフにクリムゾンスープ……それにモリーユサラダかな?」 「それにしたって量が多いだろう」と、怪訝そうな顔を崩さないファウストを前に、ルナはフフフと意味ありげに笑う。
「実はもうひとつ作ろうと思ってたのさ、なんだと思う?」 「知らん」 「即答しないでってば!ヒントはアラディアの好きなもの!」 「あいつはなんでも喜んで食べるだろう……」
と、そこまで言ったところで、はたと思い出す。 そういえば、特に予定の無い日になるとマーケットで材料をそろえてお菓子作りをしていた。卵や牛乳にパーシモンを使ったあれは、なんという名前だったか・・・・・・?
「パーシモンプディングか?」